現場で苦しんでいる教師はたくさんいます。一緒に考え、解決に向けて伴走してくれるフィーノリッケの皆さんの姿勢とそれを実現する仕組みにいつも学ばせていただいています。

教育心理カウンセラー 松島葉子様

不適切指導のある教育現場をなんとか変えたい

私は現在、徳島県で子どもアドボカシーやカウンセリング、学習支援等を仕事としています。お子さんの思いを汲み取って代弁したり、保護者の方からのご相談を受けたり、先生方からのお悩みを聞いたり、時には保護者側と学校側の間に入って問題解決にあたることもあります。
特に、発達障がいがあるお子さんや、診断は下りないけれども行動の偏りがあるいわゆるグレーゾーンと言われるお子さんの保護者の方は、深い悩みを抱えてしまいがちです。保護者の方のお話をうかがい、お子さんのために必要なサポートをご提案し、学校に直接お願いをしたりするなどのサポートをしています。

元々は、東京で学校の教師をしていました。ちょうど私が若手だった頃に、日本でも発達障がいというものが教育現場に紹介され始めました。
子どもが、集中力を保てなかったり、トラブルを繰り返したりするのには理由があるんだ、ということが浸透し始め、教育現場も指導よりも支援へとシフトしていった頃です。いい方向に向かっていると思っていました。
しかし、東京から徳島へ移住し、学校に行かれなくなってしまったお子さんたちの声を聴くようになると、まだまだ体罰、暴言、怒鳴り倒し、といった『不適切な指導』があるのを知り衝撃を受けました。
これをどうやって直したらいいんだろう。もっと勉強しなければならない。そう思った時に教育先進国デンマークの教育について学べる、フィーノリッケを知り、まずは説明会に参加しました。

最初の印象は、代表の鈴木孝枝さんと、学校長の山縣茜さんは、質問をしたら何を聞いてもすぐに答えてくれる、ということでした。本当に何を聞いても、すぐに答えを教えてくれるんです。
出口の見えない教育現場の問題をなんとかしたい、と悩んでいた私に寄り添ってもらえたと感じました。こうしてフィーノリッケペダゴー資格認定講座で学ぶことにしました。

教師という仕事を選びながら、なぜ子どもを傷つける人がいるんだろう

デンマークにはペダゴーという、子どもの教育に携わる国家資格があります。教育学部で免許を取るのですが、現場実習の段階で本人の資質を見て、心配があれば大学にフィードバックがあるんです。他人に圧をかけてしまいやすいタイプの人は、本人が教師になりたくても、かわりに教育の研究の道が開けるよう指導されます。要するに子供を傷つける恐れのある資質があれば、免許が出ません。入口やその学びの過程で適性が判断されるのです。

日本にはそのような制度はありません。
どうして、たくさんの職業がある中でわざわざ教師を選んでおきながら、なぜ体罰などをするのか。これだけ発達障がいというものがわかってきた時代になり、みんなと違うことをやってしまう子との関わり方も研究が進んできたのに、なぜこんなに子どもを苦しめる教師がいるのか。当時の私には怒りしかありませんでした。

しかし私は、フィーノリッケと出会って、彼らもまた「支援が必要な人たち」なんだということを理解したのです。

先生を救わないと、子ども達を救えない

それは「わかった、理解した」という喜びよりも、苦しみや戸惑いのほうが大きいものでした。
彼らはなぜ不適切な指導をしてしまうのか。どんな子ども時代を過ごして来たのか。そんな行動をやめられない背景には何があるのか。
彼らの心の中を理解しようとすればするほど、結局、本当に子どもを助けたいんだったら、先生を助けなければならないんだ…。そのことに気づかされたのです。
やりきれない怒りしか持っていなかった私にとって、これからとてつもなく大きな課題に立ち向かっていくんだということが「わかってしまった」瞬間でもありました。

具体的には、講座の中で学ぶデンマークの「4つのパレット」をはじめとする心理分析の手法を学ぶ中での気づきでした。これはフィーノリッケがデンマークの国立の認定教育機関から使用許可を得ているものです。
デンマークには元々「人を包括的に見る」という理論があります。じゃあその理論を使って、私たちは何をどうやっていくのか。それを一緒に考え、議論してくれるのが、フィーノリッケペダゴー資格認定講座の実践的なところです。

受講して一番良かったのが、フィーノリッケの方々が「仲間でいてくださってる」と実感できることです。
事例のレポートを提出する時に、私はかなり難しい事例を持っていったことがありました。自分が実践したことを一緒に考えて深めてコンセプトに落とし込む作業をするのですが、その時に代表の鈴木孝枝さんが「一人じゃないよ」ということを言ってくれました。そして「職場にも、同じ考えで同じ思いを持ってがんばれる仲間を探したらいいですよ」というアドバイスをくれました。この言葉は、いまの私の活動の大きな指針になっています。

学びを自らの行動に変える

「生徒指導提要」という、文科省が発行している教師のためのガイドブックがあります。2022年の12月に12年ぶりの改訂がなされました。怒鳴り声をあげたり、威嚇的な指導をしたりしてはいけないということが、はっきり明記されています。
この改訂は、不適切指導が原因でお子さんを亡くされた指導死ご遺族の方たちが、国に働きかけて実現したものです。
大学の教職課程でこの1冊を学びます。すごくいいことは書いてあるんですが、なかなか現場で実践するということができません。教育現場は過労死が出るほど忙しいです。改訂したので読み直してね、というのは無理な話です。

そこで、要点をリーフレットにして、教師がさっと見られるようなものを作ることを準備しています。さらに、お子さんと保護者が簡単に読める絵本のようなリーフレットも作りたいと思っています。それらが、対話を引き出し、共感しあえるきっかけのツールになればと考えています。

学校は子どものためのものです。けれども、不適切指導で追いつめられている子どもたちはたくさんいます。不適切指導をなくしたければ、現場の先生たちに理解を求めるしかない。そして彼らを支援しなければ子どもたちを守ることができない。
そう気づかせてくれて、自分の行動を変えてくれたフィーノリッケに感謝しています。そしてこれからもここで学び続け、仲間を増やしていこうと思います。